雄々しく、強くあれ
説教要旨(7月30日 朝礼拝より)
コリントの信徒への手紙一 16:10-18
牧師 藤盛勇紀
最後の挨拶が記されます。パウロはまず同労者テモテとアポロに触れます。パウロとコリント教会との間の微妙な問題もあって、間もなくコリントに到着するテモテのことが心配なのです。「テモテがそちらに着いたら、あなたがたのところで心配なく過ごせるようお世話ください。わたしと同様、彼は主の仕事をしているのです。だれも彼をないがしろにしてはならない。わたしのところに来るときには、安心して来られるように送り出してください」。コリントの信徒たちはアポロに来てほい。ところが「今行く意志は全くありません」。コリント教会はがっかりしたでしょう。そこにパウロの弟子のテモテが来るとなるとどうか。パウロの心配は尽きません。
15節以下では「ステファナの一家」のことや、3人の人の名前をあげて執り成します。しかし、その前に短い勧めの言葉を差し込みます。「目を覚ましていなさい。信仰に基づいてしっかり立ちなさい。雄々しく強く生きなさい。何事も愛をもって行いなさい」。なぜここで、この勧めを挟んだのでしょうか。
「目を覚まして」は、主が来られる終わりの時に備える基本的姿勢です。「信仰に基づいてしっかり立ちなさい」は、原文は「信仰に立て」。コリント教会は「十字架の言葉」の愚かさに立てず、人の知恵・世の知恵を頼りにしてしまっていました。さらに復活信仰にさえ立てず、何を頼りに生きているのか、どこに命があるのか分からない状態でした。信仰の土台が揺らいでいたコリント教会にとって、「信仰に立て」は根本的な勧めです。このままでは建つものも建たない。進んでいても、どこに向かっているのか分からない。そうではなく、立つべき所に立ち、向かうべき所に目を留め、「雄々しく、強く生きよ」。
「雄々しく、強くあれ」は、エジプトを脱出したイスラエルの民が約束の地に入った時、モーセの後継者ヨシュアに対して、主が繰り返し語った言葉です。イスラエルは40年の荒野の旅の中、何度もぐらつきました。「雄々しく強くあれ」とは、主なる神への信頼で生きよ、ということです。この世のアレコレに目を奪われ、人の言葉や世の移ろい行く思想に、ふらふらと揺さぶられるのでなく、あなたを愛しておられる主の恵みによって生きよ、というのです。この言葉は受け身なのです。「主の恵みによって強くされていよ」と。
あなたの主があなたを愛しておられる。あなたはキリストを知って、愛なる神を知った。どんな時にもあなたは神の愛から漏れることはない。だから「何事も愛をもって行いなさい」と言うのです。「知識は人を高ぶらせるが、愛は造り上げる」(8:1)のであり「愛は、すべてを完成させるきずな」(コロサイ3:14)。噴出していた問題が解かれるためには、キリストに現された愛から始めるしかないのです。
「ステファナの一家」は、パウロがコリントに伝道したときに、パウロ自ら洗礼を授けた数少ない人々です(1:14~15)。彼らは「労を惜しまず世話をしてくれました」。この言葉は、《奉仕のため自分自身を任命した》という言葉で、誰か強制されてではなく、教会の何かの職務ということでもなく、全く自発的に仕えた人々です。「どうか、あなたがたもこの人たちや、彼らと一緒に働き、労苦してきたすべての人々に従ってください」。
パウロが願っていることは、こうした奉仕者たちに頼って任せっきりにするのではなく、一人一人が自分自身を任じるようにして役割を担ったり、人の世話や支援をしたり、協力してほしいということです。
名前が挙げられた3人は、パウロの手紙をコリントに持って帰るのでしょう。本来コリントの信徒たちが為すべきことをこの3人が満たしてくれたようです。彼らはパウロの良き理解者となりました。「このような人たちを重んじてください」とパウロは願います。
パウロが腐心しながら勧告していることからも、コリント教会では「初穂」のような人たちや、自発的な奉仕によって尽くしている人たちに倣おうとすることに欠けた教会だったことが想像されます。この世の価値観、人間的な知恵や情に流されて、ふらふらしていたのです。そのただ中で、パウロが言いたいことは、ただ「信仰に立て(恵みによって立て)」「雄々しく、強くあれ」、神の愛と恵みによって生きよ!なのです。
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