いのち注ぐ恵み
説教要旨(3月10日 朝礼拝)
ヨハネによる福音書 12:1-11
牧師 星野江理香
いわゆる「ナルドの香油注ぎ」等と呼ばれるものは、ヨハネ書の場合、十字架のご受難の数日前、エルサレム入城前のベタニアでの出来事です。また第11章に見られるように<ラザロの復活>による人々の動きを契機に、エルサレムはいよいよ主イエスを殺す計画が立てられ、主を見つけ次第逮捕せよとの命が出された頃でもありました。
そのラザロ復活の時も、主イエスは、危険を冒してベタニアへ赴きラザロを蘇えらせました。ラザロの姉妹マルタとマリアが、どれほど大きな感謝と喜びに包まれたかははかり知れません。しかし、その時以上に危険な中でベタニアを再訪された主のために、蘇ったラザロも同席する宴が開かれ、「重い皮膚病」を癒していただいたシモンをはじめ、そこには、主のみ力と憐れみを知り、感謝と信頼で主を囲む人々がいました。すると給仕の女性以外は男性ばかりの宴席に、ラザロの姉妹で後々「ベタニアのマリア」と呼ばれるマリアが現れます。そして、明日にもエルサレムに出発される主イエスの足元に跪き、壺の中の香油を全て注いでその両足に塗り、自分の髪をタオル代わりに主イエスの足を拭い清めたので、居合わせた人々が驚いたのは言うまでもありません。何故と云えば、第一に、人の足を洗い清める行為は、当時奴隷の中でも最下層の者が行う仕事であったからです。またそれは、相手に対する謙遜な奉仕と従順を示す行為でもありました。もっとも、主イエスもまた、最後の晩餐の夜、御裾をからげて弟子たちの足を洗われたことを私たちは知っています。そうしますと、このマリアの油注ぎの行為は、主イエスの洗足の儀の反映といえるでしょう。但し、主が使われたのは水ですが、マリアは高価な香油を惜しみなく注ぎました。ユダの言葉からもわかるように、その香油は、当時の労働者の賃金のおよそ1年分もする高価なものでしたが、そうして主が高価な香油以上に尊い御方であることを表わしたのです。また第二に、マリアが、少なくともこの時代のイスラエルでは女性にとって大切な、「女性の命」などともいう髪を、まるで雑巾のように惜しげもなく用いたからです。そこには彼女の献身の覚悟が見えます。
また、その香りの性質から、マリアの香油は、幾つかの精油をブレンドしたものであったであろうと解釈されるところですが、マリアの主イエスに対する純粋さ…二心なく、不器用なほどひたむきに主を愛し信頼し、感謝と従順とでお仕えしようとするマリアの心の純粋を、ここでは「純粋」という香油に対する形容を用いて、福音書記者は表わしているようです。
また、マリアの行動が主の言葉の通り「葬りの日のため」であっても、彼女が主の十字架の死とその意味を理解していたとは考えられません。ただ、聖霊の御導きによって、或いは直感的に、逮捕状まで出されていつ殺されるかもわからない主イエスを案じ、そんな主に自分を献げ尽くす気持ちで香油を注いだことでしょう。
一方、私たちは、私たちではなく神様が先に私たちを愛してくださったということ、それゆえに救いのご計画がたてられて、み子がこの世においでくださったということを忘れることはできません。そうして神様ご自身が私たちのために、尽きせぬ命の泉を注いでくださったので、ベタニアのマリアの献身も今に至って伝えられているのです。私たちに命と究極の愛を注ぎ、救いの恵みを与えてくださった主イエス・キリスト、この御方を、私たちは忘れることはできません。そして、「ルカによる福音書」で主の足に香油を塗った女性が“真実の悔悛者”を示すのだとしたら、このマリアの姿は“真実の主の弟子としてのキリスト者”を示すものといえるでしょう。
日常生活の様々なことに思い悩む時、私たちは、いったいどなたを信頼しどなたにお仕えしているのか、自分が誰なのかを忘れがちです。しかし、このマリアこそ、本来の私たちです。真実の主の弟子としての原点に今一度立ち返って、イースターまでの季節を過ごしたいと思います。
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