あなたを強める神
説教要旨(11月29日 朝礼拝より)
ローマの信徒への手紙 16:25-27
牧師 藤盛勇紀
この手紙の最後は神への賛美です。「神は、わたしの福音すなわちイエス・キリストについての宣教によって、あなたがたを強めることがおできになります」。これは福音の力に対するパウロの確信です。
「強める」とは「力づける」とも訳されています。印象深い所では、イエス様が最後の晩餐の夜、ペトロに言われたお言葉。「サタンはあなたがたを、小麦のようにふるいにかけることを神に願って聞き入れられた。しかし、わたしはあなたのために、信仰が無くならないように祈った。だから、あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい」(ルカ22:31-32)。この時ペトロは、「主よ、御一緒になら、牢に入って死んでもよいと覚悟しております」と言い切りますが、この立派な決意はその直後にペトロ自身によって裏切られました。他の弟子たちも皆イエス様を見捨て逃亡し、みな裏切り者集団となったのです。人間的にも信仰的にも失格者となった彼らが、後に立ち上がったのはなぜか? それは、主の祈りであり、主の信実でした。それが彼らを《力づけ》《強め》たのです。
人から励ましの言葉などをもらって力づけられたという経験は、誰にでもあります。しかし、主の弟子たちがそうだったように、人間の持ち合わせている力は、最後のギリギリのところでは全く足りないのです。
ここでパウロが言う言葉は、「神」が主語です。この箇所は、原文では長い一文です。《神が》あなたがたを強めるために、その背後にどれほど大きなことが横たわっているかということが一気に語られています。神が私たちを真に強めるために、その裏に計り知れぬ深い計画があり、神の壮大な御業があり、計り知れない愛がありました。それが、「福音」に現されたのです。
「福音」を一言で言うなら、やはりヨハネ3:16でしょう。「神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで永遠の命を得るためである」。
私たちが「滅びないで」「永遠の命を得る」。その「ため」に、神は独り子を与えてしまわれた。神はそこまでなさる。本当に人を力づけ強めるというのは途轍もないことなのです。人間を強めるために、神はその全力を傾ける。神の「全能」は、私たちを強め生かすためならば、独り子さえ与えてしまう。神の全能とは、神の愛なのです。
ならば、どうしてそれを知らないままで生きられるでしょうか。それを知ったなら、どうして、もう生きられないなどということが有り得るでしょうか。私たちが強くならないことがあり得るでしょうか。本来人間には知り得ない深い神の愛の御業がイエス・キリストに現されました。「隠されていた、秘められた計画」(奥義)が、今や全ての人に対して現されているのです。
ただ、その奥義は《神が人となって、しかも人から捨てられ殺される》という驚くべき計画で、あり得ない仕方で現されたので、人間は反発し蔑みます。「そんなのが神か」「そんなところに救いも力もあるものか」、馬鹿馬鹿しい! 「十字架の言葉は、滅んでいく者にとっては愚かなものですが、わたしたち救われる者には神の力です」(1コリント1:18)とある通りです。
しかしこの十字架の言葉が、神がお与え下さった命の道であり、私たちが真の命に与るための神のご計画、言わば命のシナリオ、命の文脈・コンテキストです。ここで私は生きることができ、死ぬことができると言えるつながりです。
私たちは今はまだ「おぼろに映ったもの」を見ていますが、それはじわじわと確かにされていく希望と平安です。ジワジワと私たちの内に染み込んで、力となり平安となり、私たち自身からも滲み出て行って、パウロのように、神を喜び讃えるようになるのです。
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