帰ってみれば分かる
説教要旨(7月25日朝礼拝より)
コリントの信徒への手紙二 7:10-16
牧師 藤盛勇紀
「わたしは、すべての点であなたがたを信頼できることを喜んでいます」。なぜパウロはここまで手放しで喜べるのか。それはコリントの信徒たちが「神の御心に適った悲しみ」を悲しんだ、直訳すれば「神に添って悲しんだ」からです。頑なで恥知らずな自分たちのために、神は何をしてくださったか。彼らは確かに、キリストとその恵みを知った人々です。だからキリストのもとで悲しんだのでした。パウロも、彼らと同じ悲しみを知っています。「わたしはなんと惨めな人間なのでしょう。死に定められたこの体から、だれがわたしを救ってくれるでしょうか」と嘆きました(ローマ7;24)。自分の救いようの無さを知っているのです。
預言者たちを通して繰り返し語られたように、イスラエルは何度も痛い目を見、神に打たれ、その度に神に赦されて来ました。なのに彼らは神に立ち帰ることをしない。その歴史とその頑なな姿は、人間を代表しています。「それでも、立ち帰らなかった」と繰り返し言われる、救いようのない存在です。コリント教会もそう見えたかも知れません。パウロとの関係も何度もこじれます。「どうしてわからないのか。なぜ立ち帰らないのか」。人間の罪は人間の手には負えず、手の施しようもなく深いのです。
ところが、それにもかかわらず、神は人間に絶望なさいません。なぜでしょうか。あのノアの大洪の後、神は御自分の心に言われました。「人が心に思うことは、幼いときから悪いのだ」。なのに、《生き物をことごとく打つことは二度とすまい》《二度と肉なるものが滅ぼされることはない》と約束なさいました。しかし人類はその後バベルの塔を築き、愚かにも神を凌ごうとします。人間は決して懲りることがないのです。
「これでもか、これでもか」という目に遭っても分からない人間を、しかし神は、どこまでも憐み、忍耐し、救いへと、神の命へと導こうとなさいます。
だからその神の憐れみの内に、神の愛の内に立ち帰ってほしい、立ち帰れ!と神は願っておられます。この神の熱情は、独り子イエスを十字架に犠牲になさいました。そうまでしても、何を犠牲にしても、神は私たちが真の命を得ることに希望をかけ続けておられるのです。
パウロは、私は救いようがないじゃないか!と叫んだように、もし自分の内の闇の深淵の深さを本当に覗き込んだとしたら、私はいったいどうしたらいいのか!と叫ばずにおれないでしょう。人間はそれに耐えることはできません。だから自分に蓋をし、誤魔化して生きるしかない。それが絶望、死に至る病と悲しみです。自分で自分を切ってしまっている。だから自分が何であるのか分からず、どこへ行くのか知らないまま、暗闇をただ漂うだけです。
しかし、人間が絶望をもって断ち切り、そこから様々な悲惨が現れ出ても、神は何度でもつないでくださっています。私たち自身の破れも、人類の歴史の断絶も、主なる神は何度もつないでくださってる。それが人類の歴史であり、全体として神の救いの歴史、私たちそれぞれの人生もそうです。
コリントの人々も神の御前で、十字架のキリストの下で、自分たちの惨めさ救いようのなさを思って悲しみました。その悲しみが「熱心、弁明、憤り、恐れ、あこがれ、熱意、懲らしめ」をもたらしたといいます。何とも表現しがたいこれらの思いは、神の熱意に触れて生まれたのです。それが神への立ち帰りを生みました。
パウロは「こういうわけで私たちは慰められたのです」と言います。「慰められた」は「傍らで呼びかけられた」という言葉です。私が神に呼ばれている。神が私に添うてくださっている。ここに、他のどんなものによっても与えられない唯一の慰めと希望と力があります。それが、いついかなる時にも、私たちを立たせるのです。
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キリストにある弁明
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