罪の正体
説教要旨(1月 4日 朝礼拝)
イザヤ書 第55章 6~13節
ローマの信徒への手紙 第7章 13~25節
倉橋康夫
<それでは、善いものが、わたしにとって死をもたらすものとなったのだろうか、>(13節a)、とパウロは問います。律法は、あくまでも神の律法であり、神のみ言葉である限り、聖なるもの、正しいもの、そして善なるものに違いないのです。以前は、他の誰よりも、パウロは律法遵守について自信を持っていました。律法を殆んど完璧に守っている、と自負しておりました。けれどもそれは、自分を誇るために、外面的に取り繕っていたに過ぎず、ごまかしをしていただけでした。律法と真正面から向き合い、その言葉に触れる時、その戒めに逆らう思いを増大させている自分に気づかされ、その結果、律法からの断罪、滅びの宣告を聞くしかありません。自分を死へと、突き落とすのです。神の善意とも言うべき律法・掟が、<わたしにとって死をもたらすものとなった>のでしょうか。
パウロはここでも、改めて<決してそうではない>、と言います。律法自体に責任があるかのように考えるのはとんでもないことだ、言うのです。そして、実は、そのような事態の背後には、罪というものがあったのだ、と言います。「罪」こそが、パウロにとって難題であり、難敵でした。<実は、罪がその正体を現すために、善いものを通してわたしに死をもたらしたのです。>、と言います。罪が動き出して、死をもたらした、と言うのです。罪を擬人化し、罪が独自に働き出すかのように描写しています。
この罪が正体を現すとは、罪の働きのことです。13節の最後の文章が、それを指し示します。<このようにして、罪は限りなく邪悪なものであることが、掟を通して示されたのでした。>、と。この限りなく邪悪な罪の働きが、<善いものを通してわたしに死をもたらした>、ということです。ここに邪悪な「罪の正体」がある、と言うのです。善いものとは、ここの文脈では、律法・掟ですが、更に敷衍して、罪はあらゆるものを悪用する、と考えることができます。私たち自身を、そして、私たちの周囲を眺めて見るならば、如何に罪のはびこる世界であるか、明らかです。このように、罪の働きの蔓延する世界は、死をもたらす、死を造り出す世界です。死とは、究極的には、神との交わりが絶たれること、神から切り離されることです。そして、人間は神から離れることによって、色々な意味で殺し合いを始めます。世界が死の様相を呈するのです。「殺してはならない」との神の戒めに対して、人は罪の働きかけに身を任せて生き始めるからです。人間の世界のあらゆる局面に、そのような状況が存在します。
死の様相を呈している、としか言えない人間の世界。その只中で、主キリストの十字架の出来事は惹き起こされました。正に、罪の働きかけのままに、人々は主を十字架にかけたのです。人の罪がその事態を惹き起こしました。罪がそこに正体を現したのです。けれども、この出来事は、主キリストの復活を経て、神のご計画の下にある、神の救いのみ業であることが明らかになりました。併せて読んだイザヤ書 第55章には、神の許に立ち帰れとの呼びかけと、豊かな赦しの約束が述べられ(6、7節)、そして、人間の思いを超えた、神のみ旨・救いの約束が示されます(8、9節)。そして、この約束は必ず実現する、と言われるのです(11節)。この約束の成就を、私たちは主キリストの出来事に見い出すことができます。
限りなく邪悪な「罪の正体」を見つめつつ、パウロは激しい葛藤を訴えながらも、最後に<わたしたちの主イエス・キリストを通して神に感謝いたします>(25節a)、と言い得るのは、この主キリストによる救いを知っているからです。私たちも、自らの内に現れ出る、邪悪な「罪の正体」に悩まされるでしょう。けれども、悩まされればこそ、主の恵みの豊かさを知ることができます。私たちの日々の信仰の歩みが、いよいよ深く主の恵みを知るものとなるよう、聖霊の導きを祈り求めつつ、2009年を歩んで参りましょう。
説教一覧(2008年度)
2008.04.06
不信心な者を義とする方
2008.04.13
わたしの食べ物
2008.04.20
福音の射程
2008.04.27
信仰の父アブラハム
2008.05.04
神の約束に生きる
2008.05.11
ここに水があります
2008.05.18
信仰によって強められ
2008.05.25
今の恵み
2008.06.01
聖霊によって、神の愛が
2008.06.08
あなたがたは、決して信じない
2008.06.15
まことの神であり、まことの人
2008.06.22
神の怒りからの救い
2008.06.29
向きを変えて、行きなさい
2008.07.06
神を喜びを誇る
2008.07.13
良くなりたいか
2008.07.20
罪が死をもたらす
2008.07.27
恵みの豊かさ
2008.08.03
恵みが支配する
2008.08.10
新しい命に生きる
2008.08.17
驚いてはならない
2008.08.24
神に属すること
2008.08.31
主と一体になって
2008.09.07
神に生きる
2008.09.14
あなたたちが救われるために
2008.09.21
自分自身を神に献げよ
2008.09.28
自由と服従
2008.10.05
賜物としての永遠の命
2008.10.12
あなたの中にある光
2008.10.19
新しい生き方
2008.10.26
この人たちに食べさせる
2008.11.2
わたしたちの本国
2008.11.9
恐れることはない
2008.11.16
父なる神さま
2008.11.23
永遠の命に至る食べ物
2008.11.30
神に背負われて行く道
2008.12.7
罪が掟を利用し
2008.12.14
天から降ってきたパン
2008.12.21
主キリストのご降誕
2008.12.28
聖なる律法
2009.01.04
罪の正体
2009.01.11
命を与える霊
2009.01.18
撃ち破られてはならない
2009.01.25
惨めさからの救い
2009.02.01
主キリストに結ばれて
2009.02.08
備えられている時
2009.02.15
人となられた神の御子
2009.02.22
霊の思いは命と平和
2009.03.01
アッバ、父よ
2009.03.08
真実な人
2009.03.15
苦しみと栄光
2009.03.22
さあ、立ち上がりなさい
2009.03.29
虚無と希望