主がお求めになるもの

説教要旨（4月12日朝礼拝より）
ヨハネによる福音書21:15-23
伝道師 上田真由美

　復活の主は、「あなたはわたしを愛するか」と三度ご自身に対するペトロの愛をお問いになりました。それに対してペトロは、「わたしがあなたを愛していることは、あなたがご存じです」と答えました。すると主は、「わたしの羊を飼いなさい」と言われました。この繰り返しの問答から、復活の主を知るとは、私たちが考えていることとは違うと気づかされます。私たちは、罪人である自分全体を海の中に隠すしかないほどに救いにおいて圧倒的なお方を見出す、永遠の命を深く思わされる、など何を得るかということばかり考えているかもしれません。
　ところがここに現れた主は、「あなたはわたしを愛するか」とキリストの方から要求される主であられたのです。ある学者がこの「愛」について、「主は『わたしに全てを献げ尽くすか』とお問いになった。それなのにペトロは、『わたしはあなたをやさしく愛しています」と答えた。このペトロの答えに満足なさらなかったから主は繰り返し問われたのだろう」と言っています。
　満足なさらなかったと言っても、主に対するペトロの愛を疑っておられたのではありません。立ち直れない時に、「あなたはわたしを愛するか」と、十字架の血の犠牲をもって、ペトロをご自分のものとして選び、赦し、信頼をもってペトロの愛を引き出そうとされたのです。ペトロの人生の中心は、揺るぎがない主に置かれているからです。その主との愛の結びつきによって、ペトロを新しく生かそうとされたのです。そうだからこの真剣な問いは、あなたはわたしを愛する者とされているではないか、ということであり、ここに、主を裏切ったペトロの罪を赦す主の愛が示されています。
　この後、主はペトロの殉教の話をなさいます。そうすると、主がペトロにお求めになった愛とは、殉教するほどに主の教会に尽くす愛ということです。主は三度にわたって問うことで、主に対するペトロの愛をより堅固にし、彼を立ち直らせ、主の愛の業に励むものとして新しく生かそうとされる。そうだから、ペトロから言えばもう分かりきったことなのに、それでも繰り返して真剣に問われたのです。
　ペトロは「尽くします」と言ったでしょう。けれども同時に、その主の真剣さにたじろぎました。もう一人の弟子ヨハネがそばにいることに気づき、あの最後の晩餐の情景を思い出しました。主の胸もとに寄りかかって親しくし、しかも「あなたを裏切る弟子は誰ですか」と誰もが聞けない話も聞くことのできる立場にいるヨハネがいる。ペトロは、主と一緒に過ごしていた時ずっと、ヨハネに対する主の細やかな愛をねたんでいたのでしょう。そうだから思わず、「この人はどうなるのですか」と問わずにはいられなかったのでしょう。
　それに対して主は、「彼が生き残っていても、あなたに何の関係があるか。あなたはわたしに従いなさい」と言われました。殉教すると言われたペトロとは大きな違いです。あのガリラヤ湖畔で初めて主にお会いした時に、主がペトロに対して言われたことは、「わたしに従ってきなさい」でした。そして最後に、復活の後におっしゃった主の言葉も、他の人はどうであっても、「あなたはわたしに従ってきなさい」です。
　主の弟子とされた私たちすべての者に、主から託された主の羊がそばにいます。復活の主を知るというのは、主を愛するその愛によって、主の羊の世話をする者とされる、主の教会に尽くす者とされる、それを知る経験でもあったのです。
　私たちは、主を愛する者とされています。そこからのみ立ち直り、従うことができます。そうしてくださるのは主ご自身です。愛に満ちた生ける主と固く結び付いてはじめて、自分の心にも愛の湧く場所が深く掘られ、枯れない真水が湧く。主の愛の業に励むものとして新しく生かされるのです。