神の国を受け継ぐ者

説教要旨（11月1日朝礼拝より）
ルカによる福音書 12:22-34
牧師 藤盛勇紀

　「小さな群れよ、恐れるな。あなたがたの父は喜んで神の国をくださる」。日本の社会の中でごく小さな群れである教会にとって、慰め深い言葉です。私たち自身、毎日様々なことで思い悩みます。衣食住や健康、経済そして人間関係と、きりがありません。しかし主は言われるのです、「あなたがたの父は、これらのものがあなたに必要なことをご存じである」。だから「ただ、神の国を求めなさい」と。
　主イエスと弟子たちが宣べ伝えたのは、まさに「神の国」の到来の事実、真実です。「神の国」とは、言葉の意味では「神のご支配」ですが、神がどういうお方であるかということから言えば、「神の愛と恵みのご支配」です。私たちがその愛と恵みの下に生き、生かされるという事実です。
　私たちの思い煩い、不安や恐れは、その神の愛の無さ、神の恵みの不在が根本にあるのではないでしょうか。神の愛も恵みも知らず、神がいないかのように生きている。そこに、根本問題があります。
　イエス様は「恐れるな」と言われます。聖書に何度も繰り返し出てくる言葉ですが、「恐れる」という言葉の語源は「逃亡する」という言葉とつながります。「恐れる」とは「逃げ出す」こと。そこにいたたまれない、このままでは生きられない。自分の「小ささ」を恐れています。自分の「命」さえ、その限界を思うと何かそこに閉じ込められている小さな牢獄のように思えて、焦っているのではないでしょうか。
　イエス様は弟子たちを慈しむようにして、「信仰の薄い者たちよ」と言われました。そして「小さな群れよ、恐れるな」と言ってくださいます。主は私たちの不信仰も弱さも小ささも、よくよくご存知なのです。
　主イエスを取り囲む群衆は、やがて主を見捨てます。手のひらを返すように「イエスを十字架につけろ」と叫びます。しかし、その群衆の中から、キリストを信じる小さな群が立ち上がらされます。主のお働きは、その小さな群から始められるのです。
　だから「小さいこと」それ自体を恐れなくてよいのです。教会も弱さや小ささを抱え込んでいます。それに耐え難いという思うこともあるでしょう。小さくて、限界があり、破れがあることが身にしみるのです。そこから逃げだしたくなるのです。
　しかし主は、「小さな群れよ、恐れるな」と言われます。「あなたがたの父は喜んで神の国をくださる」のだと。私たち小さな群れにご自分の御国をくださるのは、父なる神ご自身の喜びだというのです。なのに、なぜ私たちはそれを疑って、他のものばかり求めているのでしょうか。
　「主の祈り」で教えられているように、イエス様は神を「父」と呼べと言われました。そして私たちは、「御国が来ますように」と祈って生きているではありませんか。父が御国を完成される、神の国の全き到来の時を、待ち望んでいます。
　しかし一方、神の国はすでに到来しているのです。主は「神の国は近づいた」と宣べ伝えられました。ルカ福音書１７章では、「実に、神の国はあなたがたの間にあるのだ」とも言われました。神の国はすでに、この小さな私たちの間に現れ始めているのです。この小さな群れに、父は喜んで御国をくださいます。だから、恐れなくてよい。私たちの小ささ、弱さ、寿命や限界のある体も、神様の愛と恵みと憐れみに満ちたご計画が現されるところなのです。
　だから、自分の小さいことを恐れて逃げ出す必要はありません。むしろ自分を神のものとして大胆にお献げしたいと思います。私たちは神の国を受け継ぐ者、神の子なのですから。私たちが神の子として、キリストと共同の相続人として生きることを、父なる神は喜んで待っておられます。「小さな群れよ、恐れるな。あなたがたの父は喜んで神の国をくださる」。