ホーム | 説教 | 説教(2015年度) | 走り寄る父

走り寄る父

説教要旨(3月6日朝礼拝より)
ルカによる福音書 15:11-32
牧師 藤盛勇紀

 私たちは「放蕩息子」に自分を重ねて、「ああ、これは神から離れた人間の惨めさを知った人が、悔い改めて、神に立ち帰った話だ。これは私のことだ」と思いがちです。しかし、本当にそうでしょうか。
 イエス様が語ろうとなさっているのは、「放蕩息子の話」ではありません。前の二つのたとえ話は、「羊を捜し続ける羊飼い」の話、「銀貨を捜し続ける女」の話でした。そしてここでは、息子を待ち続けていた「父の話」をなさっているのです。
 放蕩息子は悔い改めたから父親に赦されたとか、悔い改めたから迎え入れられたのではありません。そんな話はありません。息子がまだ何も言わない先に、父の方が息子を見つけ、父の方が息子に「走り寄って首を抱き、接吻した」のです。悔い改めとも思える言葉が出てくるのは、その後です。
 兄についても、人はいろいろ考えます。「父のもとにいる兄はユダヤ人のことだろう。とくに神の戒めを守ることに真剣だったファリサイ派や律法学者たちだ」と。それにしても、この兄の言い分はもっともですし、兄の怒りも当然です。ただ、私たちは弟の言葉をも「もっともだ」と思い、その悔い改めの言葉に納得してしまいます。その意味では、いずれも常識的で当たり前の話なのです。
 ところが一人だけ「非常識」なのがいる。それは父親です。父なる神の愛と熱い想いについては、前の二つのたとえ話にも語られていました。そして「一緒に喜んでください」というのです。それに対してご近所がどう応えたかは語られていません。神の溢れる喜びに対して、人はどう反応するか。それが「兄」の姿です。
 人の反応はこのようなものです、「そんなこと一緒に喜べるものか」「不公平だし非常識だろう」。一緒に喜ぶどころか、父の振る舞いに我慢ならずに怒る。罪人たちと楽しく食事をしたイエスの姿に我慢ならなかった、あのファリサイ派や律法学者たちと同じです。この人間の常識、人間の正義による怒りが、ついに主イエスを十字架につけるのです。
 神の溢れる喜びの大きさは、人間の思いを超えて常識外れです。優等生には我慢ならない、規格外の、めちゃくちゃな喜びのです。しかし神は問われます、「あなたはそれを一緒に喜んでくれるか?」
 人間には言い分があり、理屈があります。「あんな扱いは不公平。真面目に働く兄に何の詫びもなく相談もなく、全くダメな弟のためにさっさと宴会を開く。恥知らずではないか」と。もっともです。それで、父のように喜べないし、父のように愛せない。
 だから、最後の父の言葉が大事なのです。「お前のあの弟は、死んでいたのに生き返った。いなくなっていたのに見つかったのだ。祝宴を開いて楽しみ喜ぶのは当たり前ではないか」。これが神の主張であり、問いかけなのです。「あなたも一緒に喜んでくれないか」と。
 神の喜び様は馬鹿げています。羽目を外しています。しかし私たちのためになら、神はそのようになられる。《神の愚かさ》です。もともと神のものであったのに神から遠く離れてしまった私。それが取り戻された時に、どれほど大きな喜びと楽しみが、神にあるか。
 あの兄も、じつは父から遠かったのではないでしょうか。兄は正しく、その主張も間違っていません。しかし、その自分の正しさによって生きているから、父の喜び楽しが理解不能で、父が分かりません。だから兄も招かれているのです。「お前の兄弟が生き返ったのだ、見つかったのだ。一緒に楽しんでくれ、一緒に喜んでくれ」と。
 一人の人が神のものとして回復される。その神の喜びを共に喜び楽しむ。それが教会です。私たちは、その神を喜び、楽しみとしてよいのです。
 

説教一覧(2015年度)

2015.4.5
おめでとう、主は生きておられる
2015.4.12
主がお求めになるもの
2015.4.19
主イエスとの旅
2015.4.26
自由を取り戻す
2015.5.3
人の力尽き、信仰が折れても
2015.5.10
父の約束を待ちなさい
2015.5.17
遣わされて生きる
2015.5.24
命を支える霊
2015.5.31
人に仕える主
2015.6.7
救いへの道
2015.6.14
キリストを知る道
2015.6.21
神様の愛
2015.6.28
この曲がった時代に
2015.7.5
主イエスを受け入れる者
2015.7.12
幸せの中心
2015.7.19
人生の優先順位
2015.7.26
収穫は多い
2015.8.9
和らぎある教会生活
2015.8.16
もう自問自答はいらない
2015.8.23
必要なものはただ一つ
2015.8.30
上から来た祈り
2015.9.6
神の国は来ている
2015.9.13
あなたのともし火
2015.9.20
主が備えてくださる
2015.9.27
器の中身
2015.10.4
キリストの仲間として
2015.10.11
ここにも天のはしごは届いている
2015.10.13
平和のレベル
2015.10.25
あなたの豊かさ
2015.11.1
神の国を受け継ぐ者
2015.11.8
愛は神から
2015.11.15
大切なあなた
2015.11.22
何に備えて生きるか
2015.11.29
火を投ずる主
2015.12.6
今の時を見分ける
2015.12.13
あがめよ、わが魂
2015.12.20
はるばる来られた神
2015.12.27
忍耐して待つ神
2016.1.3
神の国は来ている
2016.1.10
狭い戸口から入れ
2016.1.17
救いの業は前進する
2016.1.24
神から招かれて
2016.1.31
創造の信仰
2016.2.7
宴会への招き
2016.2.14
旅立ち
2016.2.21
主の弟子として
2016.2.28
神の大きな喜び
2016.3.6
走り寄る父
2016.3.13
主イエスの沈黙
2016.3.20
光の子らの賢さ
2016.3.27
急いで行って告げなさい