もう自問自答はいらない
説教要旨(8月16日朝礼拝より)
ルカによる福音書 10:25-37
牧師 藤盛勇紀
もう何の説明もいらないくらいに分かりやすい話のように思われます。隣人愛というのはこういうことだ、このように生きたらよいのだ、とくに主イエスの教えに聞き従って生きるキリスト者はこうであるはずだ、そう思う人が少なくないでしょう。
しかし、「行って、あなたも同じようにしなさい」との主のお言葉を、私への言葉として聞く時に、どうでしょうか。心の内が見透かされているような、自分の愛の無さが暴かれているような、後ろめたさに似た痛みを感じないでしょうか。
イエス様を試みようとした律法学者は、分かっています。私たちも分かっているのです。でも、分かっている通りにできない。だから律法学者のように、自己正当化して反問しないではいられないのでしょう。
では、私たちはこの主のお言葉の前で、どうするのでしょうか。何ができるのでしょうか。どうなり得るというのでしょうか。
もしここで、「自分はどうか、何ができるか」「自分には、愛があるのだろうか」などと、自分の内面で堂々巡りするなら、私たちはまたもや自分で自分を補おう、取り繕おうと、空しい自己正当化の努力が続くだけでしょう。
しかし、イエス様はただ、「行って、あなたも同じようにしなさい」と言われるのです。あなたにできるかどうか、その力や愛があるかどうかを問うておられません。
肝心なことは、私にできるかどうかではありません。そうではなくて、この言葉を誰から聞いているか、誰がこの言葉を言っておられるか、です。もしこれが一般的な教えなら、誰から聞いても同じでしょう。麗しい話は、誰が語っても美しい話です。
しかし、他ではないあのお方が、「行って、あなたも同じようにしなさい」と私たちに命じておられる。これが、私たちにとって決定的な問題です。
あのサマリア人は、倒れている人を見て「憐れに思った」とあります。何でもない言葉のようですが、この言葉は人の思いを表現する言葉としては使われません。聖書では常に神の御心、主の思いを表すのに使われる言葉です。たとえば、あの「放蕩息子のたとえ」に出てくる父。身勝手に放蕩を尽くした挙げ句、惨めに帰ってくる息子の姿を遠くから見つけた父が、「憐れに思い、走り寄った」。憐れに思った父は自分から走り出して行く。この父は、父なる神を表していることは言うまでもありません。
サマリア人は人間の模範なのでしょうか。だとしても、まずは主ご自身のお姿です。血まみれになって死にそうな惨めな私たちを憐れまずにおれない神です。
この例え話を聞いて、「誰もこの私を憐れに思ってくれる人がいない。だから私も誰かの隣人になりたいとは正直思えない」と思う人もいるかもしれません。確かにそうだとしても、あなたに命を与えた神も、あなたに対してそうなのでしょうか。
「だれもお前に目をかけず、…憐れみをかける者はいなかった。…しかし、わたしは血まみれのお前に向かって、『生きよ』と言った。血まみれのお前に向かって、『生きよ』と言ったのだ」(エゼキエル16:5-6)。このお方が、言われるのです、「行って、あなたも同じようにしなさい」と。このお方の御声を聞くならば、もう「では、わたしの隣人とはだれですか」などと問う必要はないでしょう。「私に何が出来るだろうか」とか「私にはたしてそんな愛があるか」などと、自問自答する必要もないでしょう。
私に命を吹き込んでくださったお方が、私にお命じになっておられる。ならば、いったい何を問うことがあるでしょうか。
主はすでに、惨めな私たちを憐れんで、命に生きる道を拓いてくださっています。だから、もう独り善がりも独りで悪がることも不要です。自問自答などやめて、み言葉を聞いて、行けばよいのです。
説教一覧(2015年度)
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2015.5.3
人の力尽き、信仰が折れても
2015.5.10
父の約束を待ちなさい
2015.5.17
遣わされて生きる
2015.5.24
命を支える霊
2015.5.31
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2015.6.7
救いへの道
2015.6.14
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2015.6.21
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2015.6.28
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主イエスを受け入れる者
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2015.8.9
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もう自問自答はいらない
2015.8.23
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ここにも天のはしごは届いている
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2015.11.8
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何に備えて生きるか
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2016.3.27
急いで行って告げなさい