王は裸で踊る

説教要旨（1月8日 朝礼拝より）
ローマの信徒への手紙 6:1-11
伝道師 山下瑞音

　本日の旧約聖書の箇所で、ダビデはここでこれ以上ない喜びを味わっています。それもそのはず、イスラエルは長い戦争に苦しみ、国内にも内乱がありました。しかし、その長い戦いも終わって、ようやく平和がやってきたという場面です。さらにこの箇所は、外国に奪われて以来各地を転々としてきた、契約の箱が、やっと首都エルサレムにやってきたという場面、まさに民族全体の念願がかなったというときです。
　ですから、ダビデは踊らずにはいられませんでした。そしてダビデは、神の前で体も心も裸になったのです。大きな喜びに満たされた彼にとっては、自分が王として威厳を保つことや常識的にふるまうことは価値を失っていました。さらに彼は、神の前で踊ったのだから、私はもっと低い者になりたいとダビデは言うのです。
　「高ぶる者は低くされ、へりくだる者は高められる」という言葉は、何度も聖書に登場します。これは神に近づくことと謙虚であることは深い関係があるという事を示しているいます。神に近づくには謙虚さが必要だ、或いは神に近づく人は謙虚になる以外にはないということ。
　しかし実際問題、謙虚になることはとても難しいことです。謙虚になって丸裸になると、自分を守るものがなくなってしまうからです。その恐怖に気づくと、なかなか神の前で裸で踊ることは出来ません。しかし実は一つだけ、私たちも神の前で裸になることが出来る方法があります。
　それは、死ぬことです。死んだ人には恐怖はありません。自分を守る必要もありません。ですから、私たちは死ねばよいのです。そして実は、私たちはすでに死んでいます。
　ローマの信徒への手紙は言います。「それともあなたがたは知らないのですか。キリスト・イエスに結ばれるために洗礼を受けたわたしたちが皆、またその死にあずかるために洗礼を受けたことを。」私たちは一度死んでいるのです。そしてかつての自分は死んで、今新しい人生を生きていると、聖書は語っています。
　そしてこの新しい人生は、常に新しくされてゆく人生に他なりません。コリントの信徒への手紙Ⅰには私たちは日々死んでいるのだという言葉が出てきますし、別の箇所には私たちは日々新たにされているという言葉も記されています
　私たちは常に新しくなっています。それは同時に、常に死んで常に生まれ変わっているということです。ダビデはこの後、有名なバトシェバ事件を起こします。息子と戦争をするという悲しい出来事も経験します。しかしダビデは神様の前では裸であり続けました。彼は、神様の前では、飾らない一人のからっぽの男として生きることが出来たのです。それは彼が新しくされ続けたからに他なりません。どんなに罪深いことをしてしまっても、どんなに悲しい出来事があっても、その時の自分は死んで新しい自分になることが出来た、それがダビデの人生でした。
　先週から新しい一年が始まりました。今日から新しい一週間が、この時から新しい一日が始まります。この「新しい」という言葉を、是非忘れないで欲しいと思います。私たちは「新しい」自分を生きています。去年の自分は死にました。先週の自分も、昨日の自分も死にました。ですから私たちは新しい命を生きているのです。このことを喜びながら、私たちもまた、私たちを選んでくださった主の御前で踊ろうではありませんか。