異邦人への伝道の使命
説教要旨(10月13日 夕礼拝)
ガラテヤの信徒への手紙 2:1-10
牧師 藤盛勇紀
パウロは振り返っています。かつて自分は教会の迫害者、キリスト者を根絶しようとしていた。ところが、出会い頭のように生けるキリストと出会い、キリスト者となり、さらに使徒とされてしまった。その経緯を改めて簡潔に語ります。信じがたい劇的な経験です。しかしパウロは、劇的な回心経験を語ることはほとんどありません。また自分の優れた知恵や知識、哲学を用いることもありません。パウロの語る福音が力を発揮したのは、キリストが生きて働いてくださったからです。「わたしはこの福音を人から受けたのでも教えられたのでもなく、イエス・キリストの啓示によって知らされた」(1:12)と言い、ペトロら重立った人たちのことも、「わたしにはどうでもよいこと」(6)だとさえ言います。キリストご自身がパウロに語り、伝道者、使徒として生かしておられるからです。
教会の使命は「伝道」だと誰もが言います。なぜでしょうか。神と断絶した罪の中に沈んで行く人間を、キリストに結ばせ、神の命に与らせ、主のもの神の子として生かす。これは福音の伝道によります。こうして主に結ばれた者の集いが、キリストの体なる教会です。
ところが、ガラテヤの教会では、ユダヤ人キリスト者と異邦人キリスト者の対立が生じていました。ユダヤ人の伝統に従って律法を守り、キリスト者でも割礼を受けなければならないと教える人たちがおり、他方、ユダヤの伝統も律法も知らずに生きてきた異邦人信者たちがいます。同じキリスト教でも生活習慣や文化がまるで違い、互いに誤解を生み、争いにもなっていました。
問題の元となっていたユダヤ人キリスト者の教師たちは、「これこそ正統、伝統だ」と主張します。今でもそうですが、「これが教会の伝統だ」と思う人は、それを信仰に不可欠だと考えがちです。自分が経験してきたことを正統だと思い込んで、さらにそれを他人に要求してしまう。それがしばしば、誤解や分裂や対立のもとにもなります。
せっかく良い経験を与えられ、神が豊かに用いようとしているのに、そのように生きていない。いつの時代でも起こります、エルサレム教会もそれで混乱し、ガラテヤの諸教会も今その問題で大いに揺さぶられています。
しかし教会には、はるかに大切なことがあります。パウロは言います。「割礼を受けた人々に対する使徒としての任務のためにペトロに働きかけた方は、異邦人に対する使徒としての任務のためにわたしにも働きかけられた」。ペトロに働きかけた神は「私にも」。そして、代々の聖徒たちに働きかけたお方は、今この私にも働きかけ、新しい命を与えてくださっています。そして、いつでも新しいことを初めていてくださいます。まさに生きておられる方の命を、私たちはこの体をもって、現していく器なのです。
それを証しする言葉が主イエスから使徒たちへ、伝道者たちへ、そして私たちへ委ねられています。教会の真の伝統とは、この福音の伝達に他なりません。他のことは時を経るにつれて変化します。なぜなら、教会はキリストの体、まさに生命体だからです。
ところが、人間は自分の経験に基づいて固定化したがり、教会の営みは形骸化・形式化し、瑞々しさを失って、干からびて命のないゴムのようなものになってしまいます。
そこでパウロは、自分がエルサレムを訪ねて使徒たちと会ったことを振り返ります。「彼らはわたしに与えられた恵みを認め、…右手を差し出しました」。ユダヤ人と異邦人を隔てていた壁は、救いに関わる最大の壁でした。全く伝統を異にすると思われた両者が、共にキリストの命に与って一つとされたことを、確かめ合えたのです。
神は、死と復活を経たイエスの霊によって、私たちを新しい命に与らせてくださいました。私たちはこの方の命の霊を注がれて一つとされ、ついにキリストと同じ姿に変えられるという約束に向かって生きます。全ての人に一方的に差し出された「恵み」です。だからパウロはこう勧めます。(2コリント5:20~21)「キリストに代わってお願いします。神と和解させていただきなさい。罪と何のかかわりもない方を、神はわたしたちのために罪となさいました。わたしたちはその方によって神の義を得ることができたのです」。
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