神の霊に生かされて
説教要旨(12月8日 朝礼拝)
ヨハネによる福音書 3:1-15
牧師 星野江理香
ニコデモが夜闇にまぎれて主イエスを訪ねた理由の第一は、よく言われるように、彼が最高法院の議員であるためでした。最高法院は主イエスのご受難に際して、主を捕らえて不当な裁判にかけ、十字架の死へ追いやります。この頃は未だ具体的計画こそなかったものの、主の「宮清め」に震撼とした最高法院の議員たちは、既に主イエスを疎ましい者と見なしていたからです。また第二に、彼がファリサイ派であったことです。主イエスが行われた数々の「しるし」を見て感銘を受け、ラビとお呼びし、また主を「神のもとから来られた教師」「神が共におられる」方と賞賛しながら、律法順守こそが神の国への道であるというファリサイ派的な考えが、持つもの全てを投げ出して主に従うことを彼にためらわせていたのです。さらに言えば、或る20世紀の高名な神学者も指摘しているように、ニコデモの信仰観が、自分の人格や既に獲得している知識・道徳心の上に、主イエスとの出会いによって何事かが加えられるのを期待するといった種類のものだったことも挙げられます。もっとも、それはニコデモに限ったことではありません。現代でも意識が高いと自負する方たちの中には、時にこちらが感心するほど熱心に聖書を読み、現在の自分を改善し、精神的により豊かになることに貪欲であったりする人がいます。しかし、罪赦されて救われること、回心の喜びは、それらとは遠い事柄であると言わねばなりません。そういえば直前の箇所には「多くの人々はイエスの名を信じた」が「イエスご自身は彼らを信用されなかった。それは、全ての人のことを知っておられ」たからと記されていました。この「信用されなかった」「多くの人々」の代表こそニコデモであるともいわれるのです。だからこそ、彼の心の全てを知る主イエスは、ここでファリサイ派が日頃最も関心を寄せる神の国の話から、信仰とは、また回心とはどういうことかを語られたのです。
主はニコデモに「人は、新たに生まれなければ、神の国を見ることはできない」と言われました。それは、人間の罪がそれほどに根深いことを暗示しています。私たちは<新たなる創造>を経る必要があるのです。この主の言葉に対するニコデモの、「年をとった者が、どうして生まれることができましょう。もう一度母親の胎内に入って生まれることができるでしょうか」という反応は、まるで科学万能時代の現代人の、救われる以前の私たち自身を目の前に見るようですが、このニコデモの答えほど的外れなものはありません。事実、新約聖書の原語において「罪」とは「まと外れ」という言葉なのです。また主は「だれでも水と霊とによって生まれなければ、神の国に入ることはできない」と仰っていますが、この言葉は明らかに「洗礼」と関係しています。宗教改革者カルヴァンも言うように、主は「水」と「霊」とを結びつけ、ただ神さま…聖霊のお働きによってのみ、私たちが新しく生まれること、「水」はそのみわざの「しるし」として用いられることを示されています。
私たちが、主イエスを長子とする神の子となるためには、聖霊によって新しく生まれなければなりません。もちろん、神さまは三位一体でおありになるので、聖霊は常に主イエス・キリストと共に働かれます。従って、私たちが信仰を与えられ、私たち自身が聖霊の宮とされるならば、主イエスは、常に私たちと共においでになるのです。それに何よりこの奇しき恵みは、御父の愛とその御旨に従って主イエス・キリストとしておいでになった主の十字架とご復活のみわざあってこそのものです。主イエスは、ここで、私たちの救いのために十字架に架けられるご自分を、モーセの青銅の蛇の姿に託して語られますが、それは、主を「信じる者が皆、人の子によって永遠の命を得るため」でした。
主イエスは、ここでニコデモを、責めたり追い詰めたりされているわけではありません。そうではなくて、だれもが聖霊を与えられ、生かされる新しい生に、ニコデモをもお招きなっているのです。そして主イエス・キリストは、ニコデモを招かれたように、全ての人を、今もその恵みのみわざへと招いてくださっているのです。
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