世界は神のもの
説教要旨(3月9日 朝礼拝)
ルカによる福音書 4:42-44
牧師 小宮一文

イエスさまが伝道を始められたときの一場面です。カファルナウムの町で人びとに教えたり、悪霊に取りつかれた人から悪霊を追放したり、病人をいやす奇跡をイエスさまはおこないました。それが噂になり、多くの人がイエスさまのところに来たときに起こった出来事です。人びとはイエスさまをカファルナウムの町に引き止めようとしました。そのときイエスさまが言われたことは「ほかの町にも福音を告げ知らせなければならない。わたしはそのために遣わされたのだ」ということでした。私はこの言葉に感動を覚えますが、それは私を一時的に力づけるからではありません。ここに終わりの日の未来が映し出されているからです。この「ねばならない」には義務のほかに「かならずそうなる」というような必然の意味があります。イエスさまがこれを言うときには特徴があります。十字架にかかって死ぬことを弟子たちに予告するときです。そこでもイエスさまは「それはかならずそうなる」と言いました。
神の必然ということについて忘れることのできない言葉があります。渋谷にある美竹教会で伝道した牧師に浅野順一という牧師がいます。その先生は「神の国は汀である」と言いました。汀とは水際や磯のことです。海には当然ですが潮の満ち引きがあります。その満ち引きを人間はコントロールできません。夕方になるといやがおうでも潮は満ち始めます。それと同じだ、とその先生は言います。神の国はいやおうなく来る。「ねばならない」だったら決意や願望です。しかし「かならずそうなる」ということならもはやその範疇を超えます。「ほかの町の人びとも神の国の福音を知るようになる、それはかならずそうなる」と言っているのです。
神の国というものを十戒の言葉はストレートに語ってくれているように思います。「あなたにはわたしをおいてほかに神はいない」と言っています。「あなたにはわたしをおいてほかに神はいない」ということを考えさせられることが最近ありました。新聞を読んでいて田嶋陽子という英文学者の人の半生を紹介するエッセイが連載されていました。その中でその先生が「母親が怖かった」と言っていたことが印象的でした。その先生のお母さんはあらゆることに支配を及ぼすお母さんだったそうです。その中で生きている田嶋陽子さんみたいな人に神さまはこれまでずっと語りかけてきたのではないでしょうか。「あなたにはわたしをおいてほかに神はいない」。汝、わが面の前に我のほか、何物をも神とすべからず。わたしの顔の前に、お母さんの顔を置くのは、もうやめよう。わたしとあなたとのあいだに、お母さんはいない。あなたの前に神として立つのはこのわたしだけだ、と神さまは言っています。
神さまは人をだれかに支配されるようにも、だれかの神になるようにもつくったのではありません。「あなたにはわたしをおいてほかに神はいない」と言っているからです。あなたはわたし以外の何物にも支配されてはならないし、神であるかのように支配してもいけない。わたしはあなたをそういう自由なものとしてつくったんだよ、だからその事実にいつでも帰りなさい、という神さまの招きです。神さまの顔の前に何物をも神として置かないということは、母親を捨てるということではありません。そのとき、ほんとうに神さまにつくられた者としての人間関係が始まるのです。あなたも神さまだけが神である自由なひとりの人間だね、と。
その神の支配に生きる自由を知らない人びとがいるなら、どうして知らないままであってよいだろうか、とイエスさまは言っています。その新聞の記事に、この日本で神の国がぽつぽつと満ち始めていることの予兆と痕跡を感じました。そしてそれはかならず終わりの日に満ちます。
説教一覧(2024年度)
2024.4.7
天の御心が地に
2024.4.14
悔い改めはいつも明るい
2024.4.21
命のパンを求めて
2024.4.28
赦して知る慈しみ
2024.5.5
静かな信頼の力
2024.5.12
祝福を受け継ぐ者
2024.5.19
主の名を呼ぶ霊
2024.5.26
沈んだ顔つきは見苦しい
2024.6.2
あなたの宝を天に
2024.6.9
約束が前を向かせる
2024.6.16
空の鳥、野の花を見なさい
2024.6.23
他人を量ってどうする
2024.6.30
求める者は受ける
2024.7.7
狭い門から入れ
2024.7.14
心根のほども知り抜く
2024.7.21
羊の皮をまとう狼
2024.7.28
天の国に入る者
2024.8.4
賢い人と愚かな人
2024.8.11
神の国は来ている
2024.8.18
信仰に実体が現れる
2024.8.25
病も罪も負う主
2024.9.1
枕する所もないイエス
2024.9.8
こころ ほどく 恵み
2024.9.15
嵐を静める主
2024.9.22
主を恐れる悪霊
2024.9.29
あなたの罪は赦される
2024.10.6
罪人を招くために来た
2024.10.13
異邦人への伝道の使命
2024.10.20
新しいぶどう酒は、新しい革袋に
2024.10.27
あなたの信仰があなたを救った
2024.11.3
回帰不能点を越えた民
2024.11.10
神の国は来る
2024.11.17
共に喜べ、収穫は多い
2024.11.24
平和を告げる使者
2024.12.1
言葉を与える霊
2024.12.8
神の霊に生かされて
2024.12.15
だから、恐れるな
2024.12.22
インマヌエルの神
2024.12.29
十字架が分岐点
2025.1.5
主の弟子を受け入れる者
2025.1.12
ともし火を消すな
2025.1.19
最後の預言者
2025.1.26
私のもとで休らえ
2025.2.2
主の憐れみの安息
2025.2.9
主の恵みの年
2025.2.16
何の妨げもない救い
2025.2.23
神の国は来ている
2025.3.2
口から出る言葉の源泉
2025.3.9
世界は神のもの
2025.3.16
しるしを欲しがる時代