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何の妨げもない救い

説教要旨(2月16日 朝礼拝)
マタイによる福音書 12:9-21
牧師 藤盛勇紀

 「ファリサイ派の人々は出て行き、どのようにしてイエスを殺そうかと相談した」。いったい何があったのか。イエス様とファリサイ派の間に、安息日の戒めを巡る対立がありました。安息日にしてもよいことは何か、一般的な言い方では、何が正しいのか。イエス様の正義とファリサイ派の正義の衝突です。「律法で許されているか」と人々は問いますが、それは「許されていない」との主張です。イエス様は彼らと議論せず、「許されている!」との宣言をぶつけて、手の萎えた人を癒やされました。大胆なチャレンジです。
 ファリサイ派の人々は、永遠の命に入るために、神の前での正しさを追い求め、聖書を深く学び、そして実践しました。彼らが追求した「正しさ」は、律法が禁じ、許されていないことを行わないことが中心です。それに熱心な余り、神の言葉である律法を間違って犯さないように、その手前に、踏みとどまるべき線を何重にも引きました(口伝律法)。その線は、踏み越えることのないよう監視されることになり、ユダヤ人の実際の生活では、神の言葉そのものよりも手前の線の方が生活に近く、権威を持つものにもなりました。
 民衆の生活に目を光らせるファリサイ派の正しさは、警察官や裁判官の正しさのようでした。しかし、ファリサイ派の関心は、他者の命や平安よりも、彼らが持つ線に照らして人を裁き、自らを正しいとすることでした。
 毎週巡ってくる安息日の律法は、生活に密着しています。なのに、神が与えてくださった安息日の戒めにどれほど神の愛と憐れみが込められているか、人々はそんなことを思いもせず、ただ人が作った線、受け継がれた言い伝えを守ることに汲々としました。そして安息日には、「安息日警察」になってしまう。
 しかしこれは、私たち自身にも思い当たることがいくらでもあります。「昔からこうしてきたのに、なぜあなたはやらないのか。なぜ違うことをするのか」。誰でも、自分たちが作った何か、あるいは先人がある時代に作った何かを用いて生活しています。それに慣れると、その何かが律法のようになってしまい、それをすること、あるいはしないことが、「正しいのだ」と思い込んでしまいます。そして、それを変えたり、踏み出すことに対して守りに入る。守りに入ると必ず、踏み越える者に対する攻撃になります。こうして私たちも簡単にファリサイ人になるのです。
 イエス様は「許されている」と宣言されました。これはファリサイ派の正義と正面衝突しましたが、イエス様はその正しさを押し通したかというと、そうではありませんでした。人間の正義が衝突すると、互いに押し込もうとします。しかしイエス様はそうではなかった。叫ぶことなく、押し込もうとせず、「去られた」のです。ただ、いつものように「皆の病気をいやして」。
 イエス様は「正しさ」から撤退したのではありません。黙って去ったイエス様に、実は神の正義が現されているのです。それをマタイはイザヤ書42章を引用して語ります。「彼は争わず、叫ばず」「傷ついた葦を折らず、くすぶる灯心を消さない」。このメシアの姿に何が現されているのか? これによって「彼は異邦人に正義を知らせる」というのです。この「正義」は「裁き・公平」など幅広く訳されますが、言わば「神のなさりよう」です。神は私たちにどうなさるお方か? それが「異邦人に!」知らされる。神の正義、神のなさりよう、神の深いお考えが、神の選びの民であるイスラエルにではなく、むしろユダヤ人からすれば救いからも祝福からも漏れている「異邦人」に現されるというのです。
 イエス様は、ご自分の正しさを声高に主張せず、むしろ、傷つき弱り果てて神の恵みも救いも期待さえできず、消え行きそうな、神から遠い「異邦人」に、《神のなさりよう》を示されました。私たちが守り、伝え、今聞き従うべきは、生ける神の言葉であり、神の正義・神のなさりようです。それは聖書に証しされ、聖霊によって私たち自身の内に示されている主のお働きです。人間が作って受け継いできたものや、積み重ねてきたもの、昔の人の言い伝えなどによっては、決して妨げられることのない、私たちに対する神の救いと恵みと祝福であり福音なのです。私たちも、ただそれだけを伝えたいのです。
 

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