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もう泣かなくてよい

説教要旨(11月2日朝礼拝より)
ルカによる福音書 7:11-17
牧師 藤盛勇紀

 ナインという町に近づいた時、イエス様は、ある若者を葬る葬送の列に出会われます。向こうから、棺を担いだ葬列がやってきます。ただ泣くか寄り添うしかない人々を、イエス様が待ち受けるかたちになりました。そこで主は、「もう泣かなくともよい」と言われたというのです。「主はこの母親を見て、憐れに思い、『もう泣かなくともよい』と言われた」。
 「憐れに思う」という言葉は、いわゆる共観福音書にだけ出てくる言葉です。しかもこの言葉は、主イエスと神様についてだけ使われています。この憐れみは、人が人に対して抱く憐れみとは違う「神の思い」です。そしてこの独特な言葉は、もともと「内蔵」「はらわた」という言葉が動詞になった言葉なのだそうです。「はらわた痛む」あるいは「身を焦がす」という表現がしっくりくるように思われます。
 しかも、この言葉が神に用いられる。いや、神にしか用いられない。それは、当時でも、極めて異常なことでした。しかし現代の人間も、「まさかこの私の悲しみのために、神が心を痛めるとか、はらわた痛むほど憐れむとか、そんなことがあるのか」と思うでしょう。むしろ、私たちが悲しみ嘆き、叫び求めたとしても、神は何も答えてくれないではないか、と。
 確かに、そう思いたくなる経験があるのです。とくに、死の悲しみはもうどうしようもありません。ただ泣くだけ泣くか、あるいは、死の悲しみに飲み込まれてしなわないように、無関心で、超然としているか。
 しかし、主イエスは、深く憐れまれたのです。「そして、近づいて棺に手を触れられ」たと。ここで、死に立ち向かっているのは、誰でしょうか。若者の母親ではありませんし、周りの人々でもありません。深く憐れみ、死に立ち向かい、棺に手をかけられたのは、主イエスです。
 このお方が「もう泣くな」と言われる。 なぜ、もう泣かなくてよいのでしょうか。 主がこの若者を生き返らせてくださるからでしょうか。しかし、生き返らせていただいても、この若者が死ななくなった訳ではないのです。いずれまた死にます。その時、また新たな悲しみが人々を襲うのです。
 ではなぜ、「もう泣かなくてよい」のか。この出来事を目の当たりにした人々に何が起こったのでしょうか。こう記されています。「人々は皆恐れを抱き、神を賛美して、『大預言者が我々の間に現れた』と言い、また、『神はその民を心にかけてくださった』と言った」。
 神はどこにおられるのか、神はいったい悲しむ私たちに関心をもっておられるのか、そう思いたくなるところで、神の憐れみに出会ったのです。「こんなところに、神は来ておられた!」。不思議な、喜びの発見でした。
 若者が生き返ったことが希望なのでも救いなのもはありません。死者に向かって、「起きなさい」と言われるお方が、ここにおられるという事実、主がここにおられたという事実が、救いであり希望なのです。
 詩編139編は、葬儀の時によく読まれますが、こうあります「陰府に身を横たえようとも、見よ、あなたはそこにいます」(7-10)。「陰府」というのは、あらゆるものから切り離された闇の世界、無関心の世界です。
 ところが、その陰府に「まさか、こんなところに」と思われるところに、主よ、あなたはいてくださる、とういうのです。
 死は、たしかに厳しい現実です。言葉を失う事実です。私たちは今日も確実に死に一歩近づいています。誰でもいずれ死ぬのです。それは怖いことですし、乗り越えがたいのです。しかし、「もう、泣くな」と言って下さるお方が、すでに来ておられます。私たちの恐れや、悲しみを、待ち受けるかのように、主がおられるのです。
 

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