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宿命をも破る主

説教要旨(1月12日 朝礼拝より)
ローマの信徒への手紙 8:33-34
牧師 藤盛勇紀

 パウロは、自分は「罪人の中で最たる者」と自覚した人でした。それは、取り返しのつかない事件の記憶と結びついていました。最初の殉教者ステファノ殺害事件です(使徒7章)。若かったパウロはこれに加担していた。そのパウロが今、「キリスト・イエスが、神の右に座っていて、わたしたちのために執り成してくださるのです」と言います。天の王座に座すキリストの栄光を、信仰の目で見ているのでしょう。
 不思議なのは、このキリストの姿をあの時のステファノも見ていたことです。ステファノは殺される直前に言いました。「天が開いて、人の子が神の右に立っておられるのが見える」。この言葉が引き金となって、パウロを含む人々は一気にステファノを殺しました。生涯の痛恨の罪の記憶です。
 ところがパウロは今、罪の記憶にうなだれない。それどころか、自分が殺したあのステファノと同じように顔を上げ、キリストを見ている。そして、大胆に言うのです。「だれが、わたしたちを罪に定めることができましょう」。なぜでしょうか。
 その秘密は、生きておられるキリスト・イエスです。ステファノは最期に叫びました、「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」。これはイエス様が十字架の上で祈られた言葉に通じます。「父よ、彼らをお赦しください」。この言葉はパウロの同労者ルカが福音書に記した言葉。当然パウロも聞いた。当然思い出します。イエス様と同じ執り成しの祈りを、自分が殺したステファノも死の間際に祈った!
 キリスト・イエスが父なる神の右におられる。この事実は、苦難の中にある人を励ますだけでなく、自分では取り返しのつかない罪に沈むしかない者をも励まし、顔を天へと向けさせるのです。
 パウロは罪の中で開き直ったのでも、図々しく立ち上がったのでもない。生きておられるイエスによって、引き上げられているのです。そこには、「執り成し」がある。イエスは、死に行くステファノを最後まで支えました。同じように、パウロを執り成し、いま立たせてくださっているのです。
 この執り成しの主を天上に見ているから、キリスト者は罪を自覚しても暗く沈まないのです。「父なる神の右に坐したまへり」(使徒信条)。この信仰的事実は、なんと深い慰めであり、励ましでしょうか。この恵みの事実を、私たちは上に仰いでいるのです。
 イエス様は、人間の弱さ、その罪の惨たらしさを知っておられます。弟子のペトロはあの最後の晩餐の夜、イエス様に対して「死ぬまであなたと一緒に行く覚悟です」と立派に宣言しました。口から出任せではなく、自分なりの覚悟があったのでしょう。しかし、人間の罪ゆえの弱さ、汚さを知っておられるイエス様はペトロに言われます。ペトロよ、言っておくが、あなたは鶏が鳴くまでに三度わたしを知らないと言うのだ。事実その通りになりました。
 主を裏切るのはペトロの宿命的な弱さでした。それを知った上で主はペトロに言われます。「しかし、わたしはあなたのために、信仰が無くならないように祈った。だから、あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい」。
 三度主を否むことはペトロの宿命だった。しかしイエスの執り成しが、それを打ち破ったのです。私たちはしばしば運命の打撃を受け、宿命に絶望します。しかしイエスの執り成しが、その運命に一撃を加え、打ち破るのです。
 教会の迫害者であり殺人者であったパウロが、打ちひしがれない秘密が、ここにあります。イエスが生きておられるので、罪の自覚の中に暗く顔を伏せず、信仰の目を高く上げて、生けるキリストによって運命が激しく揺さぶられ、破られることを知るのです。それが、私たちを運命から解き放ち、自由にします。
 

説教一覧(2019年度)

2019.4.7
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2019.6.2
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土の器なれど
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2019.10.20
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2019.10.27
あなたの怒りは正しいか
2019.11.3
肉に死に、霊に生きる
2019.11.10
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2019.12.1
神の子らよ現れよ
2019.12.8
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2019.12.15
万事が益となる
2019.12.22
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2019.12.29
神の主権と深い愛
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宿命をも破る主
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